最後に「邯鄲の枕(かんたんのまくら)」の話をしましょう。
紀元前400年頃、中国は趙の国、盧生(ろせい)という若者は自分の平坦な人生に嫌気が差して一旗上げようと趙の都、邯鄲(かんたん)に旅立ちます。
邯鄲まであと少しという場所で盧生は食事処で一休み、目の前にいた呂翁(ろおう)という老人に都へ行く理由を聞かれ、わずかな田畑を延々と耕し続ける人生がイヤになったので、もっと波瀾万丈の人生を送るために都へ行く、と応えます。
それを聞いた呂翁、では願いが叶えられる枕を進ぜよう、とひとつの枕を盧生に与えました。
盧生がさっそくそれを使ってみると、すぐに出世し、美しい妻を娶り、時には疑惑で投獄されたり、自殺しようとしたりしますが、晩年には賢臣の誉れとたくさんの子や孫に恵まれ、望み通り、波瀾万丈の人生を送りながら眠るように死んでいきます。
その時、「食事ができましたよ」という声で盧生は目が覚めます。
目が覚めた場所は食事処、時間はわずか粟粥が煮えるほどしか経っていませんでした。
盧生は呂翁が道士(いわゆる仙人ですね)であったことを悟り、自分の欲を捨てるために枕を与えてくれたことに感謝、そのまま来た道を引き返して故郷に戻った、というお話。