アカデミー賞の前日、ひっそりと開かれる映画祭があります。
ゴールデンラズベリー賞です。
ラジー賞とも呼ばれているこの賞は、アカデミー賞とは逆に最低の映画を選ぶ賞なのです。
最低映画賞、最低監督賞、最低主演男優賞……とアカデミー賞と同様に各部門があります。
しかし、それらが本当に最低というわけではありません。
そこにはユーモアや愛情があって選んでいるのです。
『良い役者のはずなのに、この役柄はないんじゃないか』
『凄い作品だけど、マーケットを完全に無視している』
そんな理由で選ばれることもあります。
実際にラジー賞とアカデミー賞を同時に受賞した役者もいます。
世界的に誰もが知っているような映画も、ラジー賞で作品賞を残念ながら獲得していたりもします。
アカデミー賞の前日に行われるラジー賞の授賞式。
役者や監督、関係者が式に顔を出すことはほとんどありません。
自分の作品が最低と言われるのですから、当然でしょう。
しかし、まれに出席する受賞者がいます。
最低主演女優賞を手にしたハル・ベリーは、三年前にアカデミー賞で獲得したオスカー像を左手に、右手にラジー像を抱えて登場しました。
そしてアカデミー賞を受賞したときの自らのスピーチのパロディを、涙ながらに演じたのです。
その姿がハル・ベリーの懐の深さを表し、人気は不動のものになりました。
『アカデミー賞をとったからと言って最高の作品とは限らないし、ラジー賞をとったからと言って最低の作品とも限らない。
あの役は精一杯演じたし、後悔もしていない、ということを伝えたくて式に出たの』
ハル・ベリーはそう言いました。
確かに全ての人にとって最高の作品も最低の作品もなく、誰かが最低と言っても違う誰かには最高かもしれないのです。
アカデミー賞もいいですが、ラジー賞にも注目してみましょう。
隠れた名作を見つけられるかもしれません。