昭和31年3月31日まで施行されていた旧法の「特許法施行規則」では、【特許請求の範囲】の記載について、「特許請求ノ範囲ニハ発明の構成ニ欠クヘカラサル事項ノミヲ一項ニ記載スヘシ・・・」のように規定されていました。
そのため、文章の途中に句点(。)は挿入できず、長い文章になってでも、切れ目のない1つの文章にすることが、もっとも望ましい書き方とされていたようです。
極端な場合には、それこそ数ページにもわたって、ダラダラと切れ目なく続く、長い【特許請求の範囲】などもあったといいます。
その話を聞いたとき、以前読んだことのある、特許技術文章のノウハウについて記した、ある本のことを思い出しました。
その本は、一般の人向けに書かれた、特許の解説書でもあったのですが、ともかく書かれている文章が切れ目なく、本当に長いので、途中でワケがわからなくなってしまうのです。
事実、それまで読んだ本の中で、一番わかりにくい本だったのです。その本の著者は、一文だけでなるべく多くのことを表現するのを、誇っているのではないか、とも思えたほどです。
実は、その本というのは、弁理士の資格を有する、ある年配の男性が書いたものだったのです。
それで、長年に渡って【特許請求の範囲】を一文で切れ目なく書いているうちに、職業柄そうした書き方が当たり前のようになって、身に付いてしまったのではないか、などと思ってしまいました。
これでは、技術文章を作るのがいくら上手くても、人に読ませる文章のほうでは、どうかと感じてしまいます。
もっとも、今では【特許請求の範囲】は、必ずしも一文で仕上げなくてもよいことになっているそうです。だから、1つの文章中にすべてを盛り込もうとする、こうした書き方が「よし」とされたのも、過去のことになりつつあるようです。