【特許請求の範囲】は、発明のもっとも大事な権利範囲を定める箇所であると述べました。そのため、【請求項】には、「できるだけ広い意味をもつ用語や表現を用いることがポイントになる」とも述べました。こんどは、これについて考えていきましょう。
たとえば、【請求項】に、「酸」と書いた場合、これは「塩酸」や「硫酸」、また「硝酸」なども含めた表現のため、これらすべての「酸」に範囲が及びます。
それを「塩酸」とか「酢酸」など、限定して書いた場合、たとえ他者が「硝酸」や「硫酸」を用いて、同じ発明の効果を得て、これを実施したとしても、それを「権利侵害」とすることはできないのです。
では、【請求項】には、なるべく広い範囲で有効になる言葉を用いたらよいのか、というと、必ずしもそうとはいいきれません。
権利範囲が広くなりすぎると、それが「先行技術」の権利と抵触する率も高まるため、それだけ特許そのものが拒絶されてしまう可能性も大きくなるからです。
この先行技術というのは、すでに過去に出願されている発明で、これから出願しようとしている、自分の発明と似た技術の部分のことを指しています。
だから、とくに先行技術がある場合には、注意が必要となります。先に出願されている発明の【特許請求の範囲】の中に、仮に同じ構成要件があったとすると、それが先行発明の権利範囲を侵すことにもなり、まさにこの部分が拒絶の対象となってしまうのです。
そのため、類似の先行技術がある場合は、その類似の程度に応じて、あらかじめ【特許請求の範囲】を狭めておくこともまた、必要となるわけです。
このように、戦略上【特許請求の範囲】を狭めるためには、
1.「記載する構成要件を増やすこと」
2.「構成素材を特定するなど、具体的な技術内容とすること」
などの方法も取られることがあるようです。
調査の結果、類似の先行技術がなかったという場合には、前項で述べたように、できるだけ広い【特許請求の範囲】とするのが有利でしょう。
ところが、その見定めが、なかなか素人には難しいところなのです。とくに技術的に複雑な発明ではなおさらです。
それから、特許の出願書類を作成するにあたって、【特許請求の範囲】の部分だけは、いちばん最後に書くほうが(まとめやすいので)よいという意見もあります。
筆者も自分で作成する場合は、まず「発明」の効果(効能)や目的などを先に書いていき、その後に、「発明」の形、機構、組み合わせ、結合法(形状)、構成(構造)にかかわる部分を書き出してから、最後に【特許請求の範囲】として纏めています。
※この「形、機構、組み合わせ、結合法(形状)、構成(構造)」のことを、「【請求項】に盛り込むべきカキクケコ」と覚えてもよいでしょう。