前項で説明した無審査主義の実用新案権も、もともとは審査を必要とされていました。それが、平成6年1月1日をもって、現在のような制度に改められたのです。
実用新案権に無審査の制度が取り入れられたのも、それが発明ほどに高度ではない小発明(つまり考案)を対象としているからなのでしょう。小発明のライフサイクルは、大発明に比較して短いと考えられるからです。
それまでの、古い制度の実用新案権では、特許権と同様に審査をとおして、4年も5年も経ってから、登録証を付与されていたので、ようやく商品化するころにはすでに多くのコピー商品が出回っており、それによって商品の価値が下がってしまうことも多々あったのです。
このように、審査に数年も要すると、小発明の保護は十分に行えません。これでは、真似た者勝ちで、正式に登録の手続きを踏んだ者が報われないでしょう。
そこで、こうした画期的な「無審査」の制度が、実用新案において採用されたのでした。
ともかく、これによって、ライフサイクルの短い商品(技術的な考案)を、早期に権利化することができるようになったのです。
ということは、近いうちに商品化を考えているような「小規模な発明=考案」であれば、それを特許とするよりも実用新案として出願するほうがよさそうにも思えますが、その点は実際のところどうなのでしょうか。
たしかに、実用新案では、無審査で早期に登録できるという大きなメリットがあります。しかし、早期に登録できるぶん、その権利期間は出願から6年という短いものとなってしまうのです(近々10年に延びる予定)。それに対して、特許権の存続期間は出願の日から20年もあります。
それに、実用新案権では、技術の内容が無審査であるぶん、出願人は自分で、その権利が有効であることを確認している必要があるのです。もし、その実用新案の権利が有効でないことが発覚した場合は、当然のことながら、一旦は登録されたその実用新案権も無効とされてしまうのです。
つまり、特許庁のお墨付きの権利ではないため、実用新案を登録している人がその権利を行使するときには、特許庁にあらためて「技術評価書」と呼ばれる、権利の有効性を記載した書面を請求する必要があるのです。
実用新案権には、こうした「あいまいな権利状態」というデメリットもあることから、従来は実用新案で出願していたような、小規模な発明も今では特許として出願されることが多くなっているようです。
こうしたことから、あるアイデアを特許と実用新案のどちらで出願すべきかについても、これまでのように発明の規模の大小で決めるというよりは、むしろアイデアの商品化を急いでいるかどうかなど、そうした出願人の状況に応じて選択されるようになっているのです。
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