普通の主婦が、洗濯機の糸くず取り具を発明したことで、思わぬ大金を手にできたという話をしました。そのロイヤルティ(特許権使用料)の総額は、実に3億円以上にものぼったということです。
まだ糸くず取り具が世の中になかったころ、回っている洗濯機の中に手網を入れて、糸くずをすくうくらいなら、ほかの主婦でもやっていたことかもしれません。
ところが、それではまだ不便を解消したことにはなりません。それを、例の主婦の場合は、網を洗濯機に固定する方法を思いついたのでした。
回っている洗濯機の水槽中ではうず巻き状の水流が起こっており、綿ぼこりや糸くずは固定された網の中に、ろ過されるような形で残るのです。
彼女はさらに工夫し、糸くず取り具の網を円すい状にして、また網の枠に吸盤を取り付けて、これが洗濯機の内側に簡単につけられるように改良したのです。
その後も、網袋の上に空気袋をつけ、こんどは固定ではなく、水槽中に浮かすことなども考えたのです。
洗濯機の糸くず取り具を思いつく「きっかけ」になったものは、虫取り網だったとも伝えられていますが、このように”ちょっとした思いつき”から始まった発明でも、やはりそれなりの思索(試行錯誤)と試作を重ねてきたことがわかります。
そうした思索と試作の賜物である、せっかくのアイデア品も、それをただ作って使っているだけでは、何らのお金も生み出すことはありません。
それどころか、皆がありがたがって使ってくれる、それほどのアイデアが権利化されていないともなれば、必ずそのアイデアをただで利用しようとする輩が現れてくることでしょう。
もっと悪いことには、アイデアを盗んだ者が、そのアイデアを自分の権利にしようとするかもしれないのです。
そうなれば、アイデアを考えて使っている者が、アイデアを盗んだ者から、アイデアの使用を差し止められるというような、本末転倒な事態だって起こらないとも限らないわけです。
たとえ善意のアイデア開放であっても、これでは余計に事態を悪くしてしまいます。だから、権利化の手続きを踏んでいない「裸のアイデア」を商品化しようとすることは、無防備であり、また危険なことなのです。
あの洗濯機の糸くず取り具にしても、ちゃんと特許が取られています。またその後改良された空気袋で浮かす糸くず取り具にしても、やはり実用新案の権利が取られています。
だからこそ、最初のアイデアは3億円以上もの莫大な特許権使用料となって、あの主婦のもとへと帰ってこられたのです。