いま、どんなものが売れ筋なのか、それを各年令層、各商品分野で、常にチェックしておくことも、個人発明家にとっては大事になる。そのとき、そのときの時代背景、社会情勢でも、それらは刻々と移り変わっていく。けっして不動のものではない。
たとえば、阪神大震災の後は、防災グッズが飛ぶように売れた。それに伴い、普通ではそれほど売れないような、防災に関する小物発明も売れるようになった。女子高生の風変わりなファッションや現代のスタイルが、マスコミで盛んに取り上げられるようになると、それに拍車を掛けるような奇抜なアクセサリーやファッショングッズも飛ぶように売れた。
携帯電話やPHSが爆発的に普及するのに伴い、さまざまな付属品やストラップに付けられるアクセサリーの類が売れた。「今後は高齢者で世の中が溢れる」とマスコミが報じると、高齢者向けグッズや介護用品などが盛んに売れるようになった・・
要は、社会を構成する人々の意識の調査こそが、重要といえる。大衆の心理をつかめるものだ。だから、ヒット商品につながるアイデア品に関する市場調査は、そのまま、時代の先を見越したうえの、「人々の意識調査」ということにもなる。
そう考えると、あの「ダイエットスリッパ」などはまさに、グッドなタイミングで商品化されたものだといえる。当の発明者は意識していなくても、あれは社会背景にダイエットブームと健康ブームが押し寄せていたときのものだった。
過去にヒットしたアイデア商品も、このように、そのときの社会が求めていたものに、うまく合致したという背景がある。さらに、「ダイエットスリッパ」や「ベビーカウボーイ」は共に、「デザインの奇抜さ」と「ユーモアさ」を兼ね備えている。
遊び心が滲み出ているのだ。現代人には、それが「心のオアシス」的にも映ったのかもしれない。そして、こういう要素こそが、小物発明のよさなのだ。また、そこが企業からはなかなか出てこない「奇抜な発想」にもなっている。
ヒットするアイデア品を発案する発明者自身が、概してユニークでおおらかな精神の持ち主であることが多いようだ。そのことがまた、提案された会社の社外アイデア担当者の気持ちをつかむのだろう。担当者も人間である。提案されたアイデア品に多少の欠陥や欠点を意識していても、発明者の人柄(意気込み)に惚れ込めば、「あの発明者なら今後も、いろいろなアイデアを飛ばしそうだ」とか「多少の欠点はなんとか、うちのほうで改善してでも、世に出す価値があるだろう」など、考えることもあるという。
ということは、売り込みのときには、発明だけではなく、自分をも売り込むというのが一つの手になる。つまり、社外アイデアの担当者に、好感を持たせるような工夫もある程度は必要ということだ。ただし、下心みえみえは逆効果。さり気ない、気遣い、心遣いが大事というところか、売り込みも案外、デリケートなものなのだ。
担当者の身になって考えてみる、というのも手だろう。自分がこの発明を提案されたら、どう思うか、また発明家の情熱なり意気込みを感じられるだろうか、と。なんにしても、発明を提案する際の売り込み文章には、あまり多くのことを書かないこと。冒頭の挨拶も簡潔に。非常に丁寧な挨拶でも、それが延々と続くと、忙しい担当者はむしろ嫌気さえ、さすだろう。
発明の内容(構造、効果)も必要最低限にとどめる。発明の効果が幾つかあるのなら、箇条書きにするとよい。そして、大事なことは、その発明の試作品の写真か、あるいはイラストを添えること。これは、発明の内容を書いた文章を補うと同時に、視覚的イメージがハッキリするからだ。場合によっては、写真よりもイラストのほうが全体的なイメージを伝えやすいこともある。要は相手に分かりやすい方法を取ることだ。実は、こういう売り込みのスタイル自体が、発明者のセンスをあらわすものとしても、評価されているのだ。