人間は、発明の積み重ねによって、生活を便利で快適なものにしてきた。人類の辿ってきた道は、まさに発見と発明の歴史でもある。今後も、こうした発明の連続が、文明をますます発展させていくのだろう。
といっても、我々の時代における発明とは、過去に発明されたものを基にして、それらを応用したり、改良したものが、ほとんどである。基礎的な原理や構造の発明は、もうほとんど出尽くしたとみる学者もいるようだ。たしかに、技術的(構造的)に、まったく新しい原理の発明が、今後も生み出されていくと考えるのは、なかなか難しいことだ。これからもたくさんの特許が出願されていくことは間違いないことだが、それらの大半は、いわば(過去の発明の)「応用発明」「改良発明」ということなのだ。
その辺の事情は、小物発明に関しても同様である。生活用品の多くは、ずっと昔から知られていた「ある基礎的な発明」を改良したり、一部改善したり、あるいは組合せたようなものばかりだ。小物発明の世界では、改良のまた改良、あるいは一部改善といった、改良型の発明が特に多い。
たとえば、最初にカミソリそのものの発明があって、その後はずっと、より安全な(より使いやすい)カミソリの改良、そのまた改良といった具合に、続いてきている。「消しゴム付き鉛筆」を最初に思いついた人は、鉛筆と消しゴムという別々の発明を組み合わせることで、さらに新たな発明製品を世に出せたわけである。
ここで何が言いたいのかというと、小物発明をこれから何か考えてみようと思う場合、最初から、新しい原理や構造が必要になるような大それた、小物発明を生み出そうとするよりは、もうすでに市場に出回っているものをよく観察して、それをもとにデザインを改良したり、何かを付加したりと、考えるほうが効率がよいということだ。そのことで別の効果が生まれたとか、製品の質が向上したと分かれば、それはそれでスゴイことだ。新しい商品的価値も見出せるかもしれない。
いろいろな電化製品のメーカーがあるが、たとえばテレビにしてもパソコンにしても、それぞれの特色はあるとしても、機能や効果には大して差がなくなってきている。それはどの製品(商品)にもいえることである。すると今後、消費者は何を基準に、購入する商品を選択しようとするのか。
値段をはじめ、性能や効果にも、それほどの違いがないとすると、デザイン(外観)や色彩といった、効果とは直接関係がないものも、選択の基準になるだろう。同時に、付加価値が高いほう、質(クォリティ)の高いほうを選ぶのは当然のこと。つまり、今後はますます、ソフト面のアイデアが重視される傾向にある。
こういう観点から、既成商品を見回りながら市場調査(商品調査)を行うと、小物発明になるヒントも見つかりやすいし、すでに着想している発明がある場合でも、今後の発展の参考になるだろう。単に、類似品探しだけを目的にしていると、大事なヒントが拾えなくなってしまう。
ちなみに、基礎になる発明に何かを付加して便利にした、使いやすくした、という場合、本来、それは「考案」と呼ばれる。そして、「考案」であれば、本来それは「特許」ではなく「実用新案」の対象となる。ただし、ここ最近は、小物の改良発明にしても、「特許」のほうで出願される傾向にある。大発明に対して、小発明という言葉もあるが、小物発明は「考案」的な発明であり、あるいは、従来の「考案」そのものともいえる。