しかし、ヒラメキというのは、それが起こるために前提となる思考状態のようなものがある。すなわち、ある特定の課題について長いこと考え続けていたり、あるいは難しい問題の解決を探っていたりと、とことん思考能力を働かせていることが必要なのだ。
そうした思考過程の蓄積が、脳にヒラメキを呼び起こすための準備をさせる。それは、アイデアが浮かぶための予備状態ともいえる。ヒラメキというものは、考えを巡らしている最中ではなく、考えることを止めたときに湧き起こりやすいものだ。
つまり、考えても考えても、答えが見つからない、解決の糸口が見出せない、ということで、脳は疲労を感じる。すると当然、休もうとする。実は、ここが大事なポイントなのだ。脳が疲れるといっても、それは主に精神の疲労である。そして、ほんとうに疲れるのは思考能力だけなのだ。
あまりにも考えすぎて、ほんとうに思考能力がマヒしたようになることがある。そのときに、脳は思考とは別の能力を働かせようとする。それこそが、ヒラメキを呼び起こす「イメージ能力」だ。左脳的な思考能力をフルに使っても解決できなかった課題や問題が、こんどは右脳的なイメージ能力にバトンタッチされるわけだ。
ここらへんのことは、いまでは大脳生理学的にも詳しいメカニズムが分かっている。右脳と左脳の関係もずいぶんと知られるようになった。特に右脳的な「イメージ能力」の重要さは、芸術の世界でも、スポーツの世界でも、さらにはビジネスの世界においても、さかんに取り上げられている。
そうかといって、発明家の世界が「右脳的」だけであることはない。右脳も、左脳も、両者がバランスよく使い分けられるのが、いちばんよいのだ。そのためには、ここで述べているように、考えるべきときにはよく考え、休むべきときにはよく休む、というメリハリを持つことだ。そして、身の回りから発明のヒントを得るためには、それなりの問題意識を常に持っていることが前提となるのだ。
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