幾星霜も重い天球を抱え上げ、慰めはヘスペリデスの園を守る実娘の笑顔だけ。
そんな苦行を強いられるアトラスに取って、半神半人の英雄ヘラクレスの願い事はたとえわずかの間でも天球の重さから逃れられるとあって、アトラスは喜んで申し出を受け入れます。
ヘラクレスは重さを和らげるために肩へ当て物をし、アトラスから天球を受け取ると、その強靭な身体で天球を支えました。
ゼウスから苦行を申し付けられてから初めて天球の重さから逃れられたアトラスはヘスペリデスの園に出かけ、娘たちから黄金の林檎をもらってヘラクレスの元に戻ります。
ヘラクレスはアトラスに感謝の意を表して天球を返そうとしますが、アトラスはヘラクレスから少し間を置いて立ったまま言います。
「せっかくだから、この黄金の林檎、ヘラクレス殿が届けるエウリュステウス殿のところまで届けてやろう。その間、しばし天球を支えていてくれ」
ヘラクレスは少し考えてから、満面の笑みを浮かべてアトラスに言います。
「まったくありがたいことだ。では頼むとしよう。その前に肩の当て物がずれているので直したい。少しの間でいいから天球を持ってくれないか?」
内心、すっかりほくそ笑んでいるアトラスは何の疑いもなしにヘラクレスから天球を受け取ります。
もちろんヘラクレスは「やっぱり自分で届けることにした」とこれもまた満面の笑みを浮かべ、黄金の林檎を持って立ち去ります。
と、いうわけで一瞬でもアトラスに同情した人、安心してください。
アトラスはこういう神様ですから。
To be continued.