ケルト系民族に取って、なにより憎いのはサクソン人。
そのサクソン人の王を記録から排除、サクソン人撃退に獅子奮迅の活躍をしたアーサーを王に仕立てて美談を作り、民衆の共感を得ると同時に、そのサクソン人王政を撃破したのが現王政である、ということを暗にアピールしたのが、「ブリタニア列王史」である、というのが現在、この歴史書に対する見解です。
歴史書を書いたジェフリー・オブ・モンマスは当時のオックスフォード助祭長のウォルターから「ブリトン人の言葉で書かれたかなり古代の本」をラテン語に翻訳した、と主張していました。
が、当時の記録ではモンマス出身とはいえ、ブリトン人の言語だったケルト語を理解できたという記録は残っておらず、事実関係においては明らかにラテン語で書かれた「ブリトン人の没落」や「ブリトン人の歴史」を参照にしており、それ以外の挿話はすべてジェフリーの創作であることが事実となっています。
そりゃそうですよね。
いくらアーサー王が英雄とはいえ、500年代中盤、北欧一帯からフランス、さらにローマ帝国まで滅亡寸前に追い込んだなんて、ほとんどアレキサンダー大王並の勢力ですから。
だからといって「ブリタニア列王史」がまったく無価値なのか?というのは別問題。
歴史書としては価値がなくとも、物語の価値としては十分に後世へ残る価値があったからこそ、今日もアーサー王伝説の原点として語り継がれているのです。