前に(「音声言語の神秘」編のところで)、漢字の「牛」は「牡牛の顔」を模した象形文字からできていると述べました。漢字の「羊」も、やはり「牡羊の顔」を現わしたものです。
それにしても、本当に牛や羊の顔に見えてくるから不思議です。実によくできています。その「羊」があまりにも美しかったから、「美」という漢字もできたのだそうです。
「漢字」は、文字どおりモノゴトの「感じ」をうまく表している、まさに「感字」です。「牡牛の顔」から作られたアルファベットの「A」(表音文字)も、そういう意味では、もともとは「象形文字」あるいは「表意文字」であったとも言えるでしょう。
日本には昔から、「名は体を現わす」という諺がありますが、さらに「字は体を現わす」とも言い得るのではないでしょうか。特に、漢字はそのことをよく示しています。
「ウマ」という片仮名を外国の人に見せても、「馬」を意味する言葉であることは分からないでしょう。でも、漢字の「馬」ならどうでしょうか?実際、ある外国の人がこの漢字の中に、「草原を疾走している馬の姿」をハッキリ見ることができた、という話を聞いたことがあります。
では、ここでひとつ、「馬」の漢字で、その様子を作れるものかやってみましょう。
馬~ 馬~ 馬馬~
こんな感じでしょうか…
「馬」の漢字の中に、「馬の感じ」というわけです。「お、これまた、ウマい!」…考えてみると、このような「絵文字」を簡略化したような、素晴らしい漢字を、それもたくさんの漢字をいつのまにか覚えてしまっていることに、われながら驚きを覚えます。
「人」の漢字は、たしかに「足を広げている一人のひと」に見えます。「目」の漢字も「目」、「口」の漢字も「口」そのものです。「歯」は篆書やその旧文字では【図3】のようになり、さらにその象形文字では【図4】のような形で表されます。
まるで漫画に出てくる人物の歯そのものです。漢字の「目」「口」「歯」だけでも人の顔を十分に表現できるでしょう。それで顔を作ってみたら、まるでNHKのキャラクター(ドーモ君)のようになりました(【図5】)。
「骨」の漢字など、本当に「白骨化した人体のイメージ」をよく表していると思います。
「皺」の漢字にいたっては、まさに「しわくちゃ」といった感じが表れています。ところが、外国語の単語の中にも、ある文字の綴りが、その文字の意味するものに見えてしまうということが、ときたま起こります。
「機関車」のことを英語で、「LOCOMOTIVE」(locomotive)と綴りますが、この文字そのものが、実際の「機関車」の姿に見えると言った、フランスの詩人もいました(【図6】参照)。
たしかに、そう言われてみると、「機関車」に見えないこともありません。彼は、その単語「機関車」(locomotive)の中に、車輪や煙突なども見出したのでしょう。
アルファベットの「O」が、いい按配に所々に入っていて、車輪の感じをうまく醸し出しています。本当に、よくできているものと、感心します。これは、対象物と似せるように、意図的に作られた「漢字」などとは違い、一種の偶然といえるものですが、とても面白く感じられます。それこそ「感字」というものです。