アルファベットとは、大事なものの順番だった可能性!言葉の摩訶不思議学

再び、「A」という文字について考えてみます。

種々の西欧言語文字のもとになったフェニキア語アルファベットの「A」にあたる文字が、もともとは「牡牛の顔」を模したもの(牡牛を表す象形文字)だった、ということはわかりました(ちなみに、漢字の「牛」もやはり、「牡牛の顔」を模した象形文字なのです)。しかし、なぜ「牡牛」が「A」の名前に選ばれたのか、ということです。

アルファベットの最初の文字に与えられた名前が「牡牛」であるからには、この「牡牛」には、それなりの意味があったに違いないのです。それは、古代世界において広く見られた「聖牛信仰」と、なにか大きな関係があるのでしょうか?祖シナイ文字の「A」は、それこそ「牡牛の顔」そのものでした。

古代の人々にとって、「牡牛」こそは万物の始まり、初源のもの、あるいは祖神としての位置付けにありました。その「牡牛」そのものは、古代世界では「アリフ(ALP)」と呼ばれていたのです。古代エジプトでも、聖牛アピス信仰などがありました。

だから、アルファベット第一文字を「初源のもの」「もっとも神聖なもの」「神」という意味を込めて、「牡牛」そのものの名前で呼んだということも考えられます。

また、「B」にあたるヘブライ文字の「ベート」は「家」、それに「G」にあたる「ギメル」は「らくだ」いう意味であると述べましたが、実際、現在のヘブライ語でも「家」のことは「バイト」、「らくだ」は「ガマル」といい、古い言語音を今日にまで残していることが窺えます。

「B」のもともとの意味であった「家」、つまり「家族」「家庭」にしても、やはり身近な存在であり、基本的な事物です。だから、「神」(牡牛)に次ぐ「大事な存在」という意味を込めて、第二アルファベット文字「B」も決められていったのではないか、などと考えてみると少しは楽しくなります。

「G」の「らくだ」にしても、古代遊牧民たちにとって、移動手段や運搬手段としてそれこそ必要欠くべからざる貴重な存在であったにちがいありません。

このようにして、古代の人々は、その世界で知る限りの事物に対して、大事なものの順番にアルファベット文字の名前付けをしていったのではないか、などと想像してしまうのです。なんにしても、ヘブライ語アルファベット22文字には、それぞれに「意味」(象徴的な意味=字義)が与えられているわけですが、その「意味の成立」を考えることは、とても楽しいことでもあります。

それぞれのアルファベット文字に与えられている「象徴的意味」を以下に、すこし示しておきます(ただし、文字は英語アルファベットで示す)。すなわち、「D」は「戸」、「H」は「窓」、「Y」は「手」、「M」は「水」、「T」は「十字」などといった具合です。表(【表1】)を参考にしてください。

さらに、ヘブライ語のアルファベットには、それぞれに決められた「数値」が付けられており、これによって、古代ユダヤ人たちはアルファベットで日付を表すこともできたのです(もちろん、今でもできます)。

このことからも、古代世界では、アルファベットそれぞれの文字は、おそらくは今よりももっと生活に密着した形でも使われていたことが窺えるのです。

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