アルファベットという言葉は、ギリシャ語文字の一番目と二番目の名前が「アルファ」と「ベータ」であることから、そう呼ばれているのはご承知のとおり。 ヘブライ語の場合は、「アレフベート」といいます。つまり、Aにあたる文字は「アレフ」、Bにあたる文字は「ベート」と名付けられているのです。
「アルファ(α)」や「ベータ(β)」、あるいは「エイ(A)」「ビー(B)」などは、古い言語のアルファベットから借用したものなので、文字の名前以外には意味はありません。
ところが、ヘブライ文字の「アレフ」と「ベート」という名前には、アルファベット文字を指す以外にも、もともとの意味があったのです。どんな意味かというと、それぞれに「牡牛の顔」、「家」となります。
では、なぜそうなるのでしょうか?それには、ヘブライ文字よりもさらに古い言語の文字を見てみる必要があります。「祖シナイ文字」や「フェニキア文字」などはかなり古い文字に属します。ここらへんに、アルファベットの起源があるわけです。
まず、フェニキア文字で「A」にあたる文字を見てみると、英語の「A」の文字がちょうど半時計回りに90度回転させたような格好になっていることが分かります。そして、フェニキア文字よりももう少し古い、祖シナイ文字の「A」にあたる文字では、さらに半時計回りに90度回転させたような格好になっています。
つまり、英語の「A」を180度に、逆さまにしたような格好ということになります。この形はまさしく、「二本の角をはやした牡牛の顔」に見えるはずです。
どうでしょう? 英語の「A」のように、今現在使われているアルファベットにしても、それをひっくり返してみると、牛の顔に似てくることがお分かりいただけるかと思います。
ヘブライ語の「A」にあたる文字の形も、やはり「牡牛の顔」を模したものだといわれますが、こちらはすぐにも「牡牛の顔」であると気づくことはありません。しかしながらよく見ると、その文字にもやはり牡牛の2本の角らしきものがあるのがわかります。
こんどは「A」以外のアルファベットを見てみましょう。同様に、「B」にあたる古い文字も、もともとは「家」の形を模して作られていました。古い言語で「家」を指す単語の最初の音が「ブ」で「B」、また「家」を指すシンボルの形から「B」となったのです。「B」が意味したものは「家」だったのです。
では、さらに他のアルファベットも、やはり何か具体的なものの名前を指していたのでしょうか?はい、そういうことになります。アルファベットはもともと具体的な事物の名前だったのです。
ところで、英語の第3番目のアルファベット文字は、「C」ですが、ギリシャ語やヘブライ語ではそれぞれ、「ガンマ」「ギメル」というように、「G」の音を示しています。
「ギメル」の意味は「らくだ」です。英語でも「キャメル」というので何となく想像できますが、この「G」にあたる古い文字にしても、やはり昔の人が「らくだ」の特徴を形にしたものだと思われます。
以上のように、アルファベットの文字は、古代の人々の身の回りにあった、何か身近なモノの形を模して作られたということが推測できるのです。しかし、また別の疑問が頭をよぎります。「なぜ、あるアルファベットの形には、その「モノ」の特徴が選ばれたのか?」「それは単なる気まぐれだったのか?」というようにです。それでは、こんどはそれについて考えていきたいと思います。