リチャード・バックが1970年に書いた「かもめのジョナサン」は分かりやすい寓話としてアメリカだけでなく日本を含め、世界中で大ヒットしました。
粗筋を書いただけで、どのような寓話であるかすぐに分かってしまうほど簡単と言えば簡単。
空を飛ぶことは自由であるけれど、その自由に関心を持たず毎日の生活に自らを閉じ込めようとする一般庶民。
やがて群れを飛び出して飛ぶことの研究を行っているジョナサンの前に表れる、飛ぶ自由を知識として手に入れた同人類(または先輩と言ってもいいですね)。
ドロップアウトすることが善、自由こそ人生のすべて的と見られていた70年代らしい寓話ですが、やはりこれを寓話として捉えると前提に問題があります。
かもめはいくら飛ぶことを研究したところで、その気になれば餌は自由に手に入る、ということですね。
この辺り、イソップ童話の「アリとキリギリス」に似ていると言えます。
速く飛ぶ、曲芸飛行ができるようになれば本来、餌取りはさらに容易になるのですが、そこには言及していません。
それをやっちゃうと、どうやら俗世間に塗れてしまうらしく、最後まで精神世界の追求や自己啓発を暗喩しています。
好みは分かれるところですが、当時の風潮を知る意味でも一読の価値は十分にあります。
リチャード・バックの寓話的作品としては「イリュージョン 退屈してる救世主の冒険」の方がずっと優れていると思うのですが。