長いこと、銀行の貸付係をやっていたある人がこんなことを話してくれたことがある。「過去に倒産したことのある人に対しても、銀行は出資することがあります。そして、この人が今度は成功するか、失敗するかは、私にも解りません。事実、以前に失敗した人でも、その後で、事業を成功させた人は何人もおります。
しかし、私は次のような人だけは、銀行の融資対象には決してすべきではないという信念を持っております。それは、倒産した時、債権者たちから逃げてしまった人です。つまり、夜逃げですね。私の知る限りにおいては、この種の人は、再び他人に迷惑をかけるタイプの人です。倒産しても、その後始末をつけた人は、まだ信用に足るのです。これに反して、逃げ廻ったりした人は、危険で、信用することができません」
この言葉は、貸付係を長期にわたって担当したベテランのいうことだけに、一層の重みがある。これは確かにそうであろう。事業に成功し、財をなすには、人の助け、人のおカネの協力なしには、まず不可能である。そして、その協力を得るための代価は、ずばり「信用」なのである。だから、一日「ことが失敗し、財を失ったとしても、この信用ばかりは保持するよう全力を上げなければならないのだ。
しかるに多くの凡人は、目に見えるおカネの力のみを重視し、目に見えない信用の力の方を軽視してしまうのである。信用は、不死鳥のように、何回もの失敗の業火の中から、あなたを甦えらせる不思議の力、魔力である。だから、成功を願う者は、この力を殺してしまわないよう、常に心をくばらねばならないのだ。