めんめんと自分の不幸を会う人ごとに訴えている人がいる。また、他人の悪口を、辛辣、舌を刺すばかりに並べ立てるくせの人がいる。いずれの場合も、このような話は案外に面白いもので、人はともかく、その話を聞くことを好むものである。

なぜなら、それはいうならば、一種の「地獄の穴のぞき」だからだ。不要、恨み、怒り、悩みの中にもがいている人々を見るのは楽しい。それは地獄の中にある人々であり、そしてそれらの人を見るのは、自分は優越の地点より、そこを見おろしている安心感があるからである。

ところが、ここで用心しなければならぬことがある。それは、それらの人々と話を交しているうちに、自分も知らず知らずの内に、その底なし沼に引きずりこまれて行くことだ。これは一種の催眠術のようでもある。朱に混じわれは赤くなるように、自分はそれに影響されていってしまうのだ。

そして、気づいた時は、自分もその落し穴に落っこちて、地獄の人の仲間入りしていることにもなりかねない。総じて、これらの地獄の人は、ツキのない人である。そして、そのツキのなさが、その人をして、不幸や悪口についてばかり話させるようになったのだ。

ツキのなさは伝染する。それは会話によってである。陰気な話題は、人を不幸にするパイキンに満ちていると考えて差しっかえない。このような話題、またその話題の主から遠ざかるのは、自分からツキを失わないための第一条件といえよう。

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