俗にいう「口八丁、手八丁」という、弁が立ち、才覚のありそうな人は、意外とセールスマンとしては、大きな業積を上げ得ないことが多い。生命保険の外交員で、年間業績におけるトップの契約高となった杉並区のある主婦は、サラリーマンの奥さんで、ごく地味なタイプ、二児の母親であった。
この主婦がトップの成績を占めたのは、企業や、大組織のかなめ要にある重要人物に接近し、その心を捕え得たからである。
そして、この要の人物の口ききによって、団体の契約がとれて行き、雪ダルマが坂を転がるように、一気に彼女の契約高はふくれ上がったのだ。では、どのようにして、彼女はこれらの重要人物の心を動かし得たのだろうか?
贈り物攻勢を行なって、1の生存本能に訴えたのだろうか?いや、ワイロまがいのやり方では、決して大勢のそれらの人々を動かすことは出来ないし、それに資本もつづくまい。4の性欲に訴えたのだろうか?いや、それをするには、彼女は平凡な容姿であり、またすでに二児の母親で、地味なタイプでありすぎる。
その答えは、次の二つのヒケツにあった。まず「相手はどんなことに興味を持っているか」を会話の間にさぐり出すこと。次には「その興味ある話題に、自分も深い興味をよせること」の二点である。
そして、この二つを行なうように最も大切な行は「拝聴」する態度である。心から関心をもって聞くのである。これによって相手は2の群居衝動と、3の自己重要感が深く充足させられる。そして、その何物にも優る喜びの代償として、彼女のために口ききの労を惜しまなくなるのである。