かくいう筆者も、実はもうかれこれ20年ほど前のことだが、西さんを自宅まで訪ねたことがある。もちろん、西さん所蔵のケサランを見せてもらうためだ。そこでは大小数十個のケサランが、昔からの慣わしどおりに桐の箱の中に収められ、白粉を振りかけられていた。西さんが所蔵するケサランは、哺乳類の体毛をもつ、いわゆる毛玉ケサランではなく、植物の綿毛状のケサランであった。
前述のように、ケサランには大きく3つの種類(というか分類)があるのだ。一つは、例の動物の体毛状の「動物性ケサラン」、そして、西さんも飼育していた綿毛状の「植物性ケサラン」、それから丸くて硬い「鉱物性ケサラン」という3つの種類である。
もちろんのこと、これは生物学上で確認されたわけではない。ケサランという生物種の系統があるわけでもない。ゆえに「ケサラン・パサラン」は、「さっぱり・わからん」ものの総称なのだ。そして、たまたまそれに動物性、植物性、鉱物性である、未確認の「毛球状」物体が見つかったということなのである。
ちょうど、「UFO」が「未確認飛行物体」を総称した言葉であるように、「ケサランパサラン」のほうも「毛に覆われた正体不明の物体」を指して、そう呼ばれている一面もあるのだ。いわば「未確認毛状物体」の総称ということにもなる。
ま、それはともかく、西さんが所蔵していたのは植物性のものであり、そして、その植物性ケサランの由来(起源)を西さんは「ビワの木」と主張していた。もっと具体的にいうと、「ビワのつぼみ」の中からそれは生じるということだった。
つぼみの先には、たまに糸くずのようなケバケバしたものが付いていることがあり、運がいいとそれが将来ケサランになるというのだ。その後はビワの木に付着しながら大きくなるものもあるのだとか。
だから、ケサランはビワの葉や枝などを丹念に観察すると見つけやすいという。とくに葉の裏に付着していることが多いとも教えてくれた。帰りぎわ、西さんはおみやげとして、「ケサランの子供(?)が出掛かっているビワのつぼみ」と「成長しきった植物性ケサラン」の数体を手渡してくれた。
「白粉をあげるのを忘れないでくださいね」どこまでも我が子を気遣うようにケサランに愛情をふり注ぐ西さんであった。