ケサランに強く魅かれた御婦人がいた。西君枝さんが、その人である。西さんは、今から25年ほど前に、『ケサランパサラン日記』(草風社)〈今は絶版〉を書いた人で、その本は今でもケサラン・ファンの間で根強い人気を保っている。
本の内容は、西さんが自宅の庭先で偶然に発見したケサランを大事に飼育しつつ、その成長観察日記を綴っていくというスタイルで、ページの隅々にまでケサランに対する強い愛情がにじみ出ている。
観察の過程では、ケサランがやってくる故郷や、また白粉の中でも特にケサランに好まれる種類などが明らかにされていく。このように、本を読んでみると、その内容にかなりマニアックな印象をもつが、この熱心な観察日記は、現代のようなロマンの少ない時代に、もう一度新鮮なメルヘンの息吹を与えてくれた、そんな印象も受ける。
しかしその一方で、メルヘンだけで語られがちなケサランに、西さんは科学の目でも迫ったのである。わざわざ顕微鏡を購入し、それでケサランの生態を地道に観察したり、大学の教授や研究者とも積極的にケサランの由来についての情報交換を続けたりもした。
それに西さんは、東北地方のケサラン所蔵の旧家やお寺を実際に訪ね歩くなど、ケサランの実態調査も行なった。また、ケサランの目撃情報をもとにその分布域をまとめた「ケサランパサラン日本全図」なるものも作成したのだ。彼女はそれほどの行動派でもあったのだ。このように、西さんこそ、文句なしに、ケサラン研究の第一人者なのである。