「哺乳類の体毛をもつ毛玉だと?」「そんなものが、白粉を食べて(吸収して?)大きく成長するっていうのか?」「分裂もするっていうことは、そうやって子孫を残すってこと?」「じゃ、やっぱり生物? 哺乳類の体毛をもつ毛玉状の生物? そんなの聞いたことないや!」「うーん、哺乳類の体毛をもった毛玉で、これが成長して子まで生むという、そんな生き物が本当にいるのか?」
れいの番組を見ていた人たちは、こうした疑問や驚きの念が頭をよぎっていたかもしれない。けっきょく、正体はよくわからずじまいで、あとには謎だけが残されたという感じだったのだ。
学術的には、毛玉が成長したり増殖したりといったことは、それ自体が非科学的な妄信であり、その正体は「単なる無生物の毛玉」(犬や狸などの体毛が集まって丸まったもの)ということで、それ以上本格的に調査されることはなかった。
しかし中には、「これは新種の生き物かもしれない」「ある種のカビの仲間ということもあるかもしれない」など、そうした研究者サイドの声もあったようだ。はたして、それは生き物なのか、単なる毛玉なのか、正体がハッキリしない中、テレビでその姿を見た人たちは、弥が上にも想像力を掻き立てられることになった。
「あれは、この世のものではないのでは?」「妖怪のたぐいじゃないの? 毛むくじゃらの」「宇宙から飛んできた、謎の生命体では?」実は、ケサランには哺乳類の体毛状のものの他、植物の綿毛状のもの(冠毛状のもの)まであるのだ。それらも、同じように白粉を栄養として、成長するというのだから、ますますワケがわからなくなるだろう。
「うーん、これは、やっぱり、さっぱりわからん」その昔、ケサランの不思議な生態を目の当たりにした人々が口にしたであろう、この同じ言葉を、現代に生きるわれわれもまた、溜息まじりに吐き出すことになるのだ。