イギリスの実業家であったオコンナー氏。彼はアメリカへ出張する前に、同じような夢を何度も見たことが伝えられている。
夢の内容は、自分が乗った豪華客船が沈没するという戦慄すべきものだった。
大勢の人が、暗く、冷たい、海の中へと次々と投げ出され、なすすべもなく、命を絶っていく。
そんな不吉な夢の内容が頭から離れなかった彼は、出張のために近々乗船予定だった豪華客船「タイタニック号」に乗ることを断念する。
しかしその決断の結果、彼は自分が体験するはずであった、その後の恐ろしい悲劇から逃れることができたのだ。
実は、タイタニック号が沈没するという不吉な夢を見た者は、このオコンナー氏以外にも多くいることがわかっている。
カナダで神父をしているチャールズ・モーガンもその一人だ。
彼は、それが沈没する恐ろしい夢を見たことを、実際の沈没がおこる数時間前に信者に話していたのだ。
イギリス人ジャーナリストであったステッドも、この神父のように、やはり沈没の夢を見て、その恐ろしい内容を他人に話していた。
しかし彼の場合、その不安をよそに、タイタニック号に乗船した結果、命を落とすことになったのである。
ここで挙げた例のように、乗船するしないにかかわらず、タイタニック号沈没の悲劇を事前に夢で見たという者は意外と多いようなのである。
このことは、次のような考え(空想といってもよい)を抱かせずにはいられない。
すなわち、その後の歴史に残るような、つまり、いつまで経っても、多くの人々の心に残って消えることのない、大きな出来事(この場合は大惨劇)は、それが起こる以前に、多くの人々に、共通の印象をもたらす、予知的な夢を引き起こす作用がある、という可能性である。
とくに、人類規模の大きな惨劇は、それだけ(人類規模の)多くの人の心に深い印象を残すだろう。
その結果、その印象は、大惨劇が実際に起こる以前の時間と空間にまで広がるのかもしれない。
この場合、「印象の度合い」というものを、一種の「情報量」として捉えてみると、わかりやすいかもしれない。
その度合いが、多くの人々の心の許容量をはるかに超えた場合、それはオーバーフローの状態となる。
その結果、共通の印象は時空を超えられるかもしれないのだ。
ある時間系列の中で起こった、人類規模の大きな出来事は、その時点を基点に、その共通の印象を過去にも未来にも伝播させるというわけである。
時空を超えた印象の波は、通常の意識が変容している睡眠状態のときに、脳がキャッチしやすいといえよう。
すると、その心がイメージ(心像)を形成するという考えである。
それが予知夢として機能しているのだとすれば、これはもっと有効活用させるべきものともなるだろう。