「神話シリーズ」カテゴリーアーカイブ

北欧神話!神話の共通点

「指輪物語」に出てくるドワーフやエルフが北欧神話の民族であったことに対しては後述するとして、そろそろ北欧神話の本題に向かいましょう。

現在から神の概念をたどると、どうしてもイエス・キリストやモーセといった預言者からの一神教に行き当たりますし、仏教においてもブッダという超越した存在があり、それぞれは人として生きる道を説いていますが、神話の世界とは言ってみれば人間が生きる道以前、自然の畏怖に対して人間はどのように対処すべきか、つまり人間が生きていくためにはどうすべきか、という原始的な信仰が含まれています。

したがって、どの神話を取っても国づくりから始まり、人間に自然の恵みを与える神や人間の生活を脅かす自然の神がいて、それぞれが大掛かりな戦争を行うという、なんともスペクタクルで人間臭い神様が多く登場してきます。

日本の神話然り、ギリシャ神話然り、当然、北欧神話も例外ではありません。 続きを読む 北欧神話!神話の共通点

北欧神話最初の巨人、ユミルの誕生

北欧神話における世界の始まりはギンヌンガガプという巨大で空虚な裂け目です。

ギンヌンガガプに限らず、北欧神話もギリシャ神話同様、いろいろと呼び名があるのですが、一応、その中から多数派と見られるポピュラーな呼び名を採用します。

このギンヌンガガプのおよそ北側という曖昧な場所に氷の国のニヴルヘイムがあり、およそ南側という同じく曖昧な場所に灼熱の国、ムスペルヘイムがあって、ギンヌンガガプにはニヴルヘイムからの凍りつくような冷気とムスペルヘイムの燃え尽くすような熱気が吹きつけていました。

この冷気と熱気がぶつかって霜が発生、その霜から垂れた滴が毒気となり、この毒気から北欧神話最初の巨人、ユミルが誕生します。

ユミルと同時に牝牛のアウズンブラが生まれ、ユミルはアウズンブラの乳を飲みながらユミルの身体(主に足)から次々に巨人を生み出していきます。 続きを読む 北欧神話最初の巨人、ユミルの誕生

北欧神話の世界から生まれた人間型神

北欧神話の世界、今のところギンヌンガガプという空虚な割れ目から生まれた巨人ユミルと、そのユミルから生まれたヨトゥンと呼ばれる巨人たち、牝牛アウズンブラの舐めた塩の氷から生まれた人間型神が存在しています。

巨人と交わったボルを父に持つ三神、オーディンとヴィリ、ヴェーはしかし、巨人に対して敵愾心を持っていることから、その産みの親であるユミルの殺害を実行します。

考えてみれば三神の祖父、ブーリは塩の氷から生まれたのであってユミルから生まれた巨人と交わったとしても、三神にしてみれば血統的に見れば遠縁には当たりますが直系というわけではありません。

なぜ敵愾心を持ったのかというと、これについては詳しく伝承されていませんが、巨人が無秩序であったことに対して人間型神の三神が秩序を好むということが理由と推測されています。 続きを読む 北欧神話の世界から生まれた人間型神

北欧神話!9つの世界の始まり

北欧神話の世界で最初の巨人、ユミルを滅ぼして天と地を創り上げた人間型神オーディンは、その世界の住人、人間を海岸に流れ着いた2本の木から創ります。

トネリコの木からは男を、ニレの木からは女を。

これが北欧神話で最初に登場した人類で、名前はアスクとエムブラといいます。

ちょっとアダムとイブに似ていますね。

旧約聖書でも同じく天地創造の後にアダムとイブが登場、旧約聖書ではアダムとイブのその後が重要となっていますが、北欧神話では大した意味を持たず、オーディンは創りあげた大地に人間を住まわせます。

これが北欧神話の世界観を形成している「9つの世界」のうちのひとつ、ミッドガルド。 続きを読む 北欧神話!9つの世界の始まり

北欧神話!世界を支えるユグドラシル

北欧神話を形成する「9つの世界」はユグドラシルという巨木に囲まれており、三層に分かれています。

この巨木に支えられている最上層には当然、オーディンを始めとするアース神族に、同じく人間型神のヴァン族、一節にはこれに半神である光の妖精、エルフが住むアールヴヘイムが加わります。

第二層には人間の住むミッドガルドに小人の世界のスヴァルトアールヴヘイムや巨人族のヨトゥンヘイムなどがあり、最下層には北欧神話の始まりからあった炎の国ムスペルヘイムや氷の国ニヴルヘイムがあります。

このニヴルヘイム、一節には地獄や死者の国と表現され、名称もヘルヘイムと呼ばれることがあります。

ユグドラシルはその大きさから世界樹、あるいは宇宙樹とも呼ばれ、9つの世界すべてに根を張っており、その根には3つの魔法の泉があります。 続きを読む 北欧神話!世界を支えるユグドラシル

北欧神話の陰の主役ロキ登場

北欧神話は9つの世界による三層構造、神々と巨人族の対決という図式で成立しています。

最高神となったオーディン率いるアース神族とヴァン神族による小競り合いみたいな戦いもありますが、これは本筋による横糸、味付けみたいなもので大した意味はありません。

また最高神オーディンの冒険譚とかもありますが、複雑に絡んでいるにせよ、これも横糸でしょう。

北欧神話は誕生と同時に滅亡が描かれている、世界でも珍しい神話なのです。

その滅亡とは人間が住むミッドガルドの外に作られたヨトゥンヘイムに住む巨人族が神々を襲うというもの。 続きを読む 北欧神話の陰の主役ロキ登場

北欧神話!巫女の予言

北欧神話はなぜ天地創造と同時に世界終末まで世界観として描かれていたのか、というと、この北欧神話の構成の元になった「散文のエッダ」では重要な一節として、その後に書かれた「古エッダ」では冒頭にある「巫女の予言(ヴォルヴァの予言)が、いきなり天地創造と最終的な世界滅亡を語ることがその理由です。

映画の世界でもよくありますよね。

結末を見届けた脇役が語り部となって全編を話し始める、という方式。

最近の映画ではクリストファー・ノーランが監督した「インセプション」で、サイトー(渡辺謙)の元にやってくるコブ(レオナルド・ディカプリオ)がファーストシーンに登場するという、あの手法です(あんまり紹介するとネタバレになってしまうので)。

一種の倒置法ともいえます。 続きを読む 北欧神話!巫女の予言

北欧神話の体系は詩の教則本から

北欧神話が現在に伝えられる源流となったのは1220年頃、アイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが記した詩の教本「エッダ」で、このなかの「ギュルヴィたぶらかし」が主に現在の北欧神話を形成しています。

ギリシャ神話同様、北欧神話も北ゲルマン系民族による詩の形で口語伝承されたもので、この神話の詩を散文にして解説、若い詩人たちへの指南書としたのですが、それまで口語伝承の詩が文面として残っていなかったことから北欧神話を初めて体系的にまとめたとして高く評価されています。

スノッリの書いた「エッダ」の元になっているのは古ノルド語(13~14世紀の北ゲルマン民族で使われた言語)で作られた北欧神話や英雄伝説の詩ですが、スノッリが「エッダ」を書いた50年後、それらの詩の原型を記した「王の写本」が発見されたことから、この「王の写本」を「古エッダ」や「韻文のエッダ」、スノッリが書いたエッダを「散文のエッダ」とか「スノッリのエッダ」として区別しています。 続きを読む 北欧神話の体系は詩の教則本から

北欧神話!オーディンが訪れたミーミルの泉

世界樹ユグドラシルに包まれた最上層、アースガルドに住むオーディンは最高神となりましたが、ギリシャ神話の最高神であるゼウスと違うのは全知全能ではないこと。

なにしろオーディン、世界を創り上げたはずなのに自分の知識欲をさらに満足させようとユグドラシルの根にある魔法の泉のひとつ、別名、知恵の泉といわれるミーミルの泉に出かけます。

このミーミルの泉、どこにあるのかというと第2層の巨人族が住むヨトゥンヘイム。

いわば敵対関係にあるところですが、この時点では巨人族、まだ神々に対抗する力を持っていなかったのでしょう。

しかしミーミルの泉は巨人ミーミルが守っており、ミーミルは知恵の泉の番人をしているくらいなのでとても賢いのです。 続きを読む 北欧神話!オーディンが訪れたミーミルの泉

北欧神話のミッシングリング

北欧神話、一応は「エッダ」によって体系づけられていますが、なにせ13世紀に入ってのこと。

しかも「エッダ」は当初、詩を散文にした教則本であったことから北欧神話の体系というよりも詩に重点が置かれていたので、きちんとした体系はさほど考慮されていません。

しかも口語伝承する北ゲルマン系の語り部は姿を消し、韻文のエッダ詩しか残されていないのですから、矛盾は至るところにあります。

つまりミッシングリングが体系の中にいくつも存在しているわけですね。

古代の北ゲルマン民族は古代ギリシャ人のように洗練されていたわけではないので、その点でも最初からギリシャ神話の体系を目的にしたヘシオドスの「テオゴニア(神統記)」と詩の教則本だった「エッダ」とは体系としては比べる方が間違いというものでしょう。 続きを読む 北欧神話のミッシングリング

北欧神話!終わらせる者、その名はロキ

北欧神話は横糸が複雑に絡み合って本筋を形成するややこしい部分があるので、アプローチを変え、ロキを中心として時系列を組むと分かりやすいでしょう。

巨人族でありながら、最高神オーディンが巨人族の住むヨトゥンヘイムまで下りていき、ミーミルの泉の水を飲んだ後、なぜかオーディンに同行するロキ。

古ノルド語でロキは「閉ざす者」や「終わらせる者」という意味があります。

不吉な名前ですね。

ロキは父親こそ名も無き巨人でしたが、母親はラフフェイと言い、一節にはアース神族の一員だったという仮説もあります。 続きを読む 北欧神話!終わらせる者、その名はロキ

北欧神話!神々のために働くロキ

巨人族でありながら神々の住むアースガルドへ行ったオーディンの義兄弟、ロキですが、神々にとってロキは格下の巨人族ですから同等に見るはずがありません。

アースガルドに住む神々、ロキにいろいろと仕事を依頼します。

この辺、横糸なのでサラッと流しますね。

たとえばオーディンが持つ槍、グングニルはロキが小人の世界の住人であるドヴェルグ(ドワーフのことですね)の鍛冶屋、イーヴァルディの息子たちに作らせたもので、この槍はけっして的を外すことがなく、しかも敵を貫いた後は自動的に持ち主の元に戻り、さらにこの槍を向けた軍勢は必ず勝利するといわれています。

また農耕の神トールの鎚(打撃用武器)、ミョルニルもロキがドヴェルグに作らせたものです。 続きを読む 北欧神話!神々のために働くロキ